珍しく北海道に台風が上陸しそうだ、と町中で警戒していた。
平成16年、9月7日のことだ。
白いお腹にトラのがりがりに痩せた仔猫が、その数日前から近所に姿を見せていた。
新興住宅地でまだ家はまばらに建っているだけだったから、近くで野良猫を見たことはなかった。そばを走る国道に、通りすがりに仔猫を捨てた人がいたらしい。それまでも、ときどき、そういう不心得者が目撃されていた。捨てられた子たちはいつのまにか、姿を消してしまう。付近には野生のエゾタヌキやキタキツネ、トンビやハイタカがいるから、ほとんどはそいつらに喰われたものと思われた。
トラネコのその仔猫は、なんとかキツネやタヌキらから逃れていたようだ。でも見るもかわいそうなほどの痩せ方だった。遠目にあばら骨が浮き出て見える。なのにお腹がぽっこりしている。ということは、回虫をお腹に持っている可能性もあるのだった。他にも健康状態に問題を抱えていそうだった。この冬を生き延びるのは難しそうだった。
その仔猫が、どういうわけだか、わがやの玄関先にいついてしまった。えさをやったわけではないのだが、玄関先からぐるっと庭のほうにまわり、窓のしたで呼ぶように啼き続ける。
あんまりかわいそうなので、空の餌をすこしわけてやると、あっと言う間に食べてしまった。そんなことが三日続いた。その間、誰かが飼ってくれないものか、心当たりをあたっていた。
候補は現れなかった。
台風が来る。勢力を落とすことなく北上しているようだ。
18号のニュースが流れ、裏付けるように風が雨が強くなってきていた。外では仔猫が軒先で鳴いている声が聞こえている。
ほおってはおけなくなった。
家に中に大きめの段ボールを用意し、トイレと寝床をつくり、仔猫を保護した。まだ健康状態を調べていないので、すでに家にいたネコ、空への病気感染の心配があったのだ。
翌朝9月8日、北海道はひどい台風になった。
保護した仔猫は、最初こそおとなしかったものの、すぐに段ボール箱から飛び出しては走り回った。なかなかやんちゃな雄猫だった。しかし、空は、どうもこの猫が気に入らないらしい。しきりと威嚇する。接触をさけるため、仔猫は、空が入れない部屋に入れた。
台風がおさまって、ようやく動物病院に連れて行った。飼ってもいい、という人も現れた。健康状態がよければ、予防接種をして、もらってもらうつもりだった。
「ネコ白血病ですね」
これが仔猫を調べた結果だった。
数年前にうちにいたネコ「シジミ」は、この病気がもとで9ヶ月で死んでしまっていた。どんなに恐ろしい病気か、よくしっていた。ショック。
もらってもらう話は流れ、我が家のネコとして引き取った。毛皮の色から「麦」と名付ける。それを聞いた友達は「おいしそうでいい名前だね」と褒めてくれた。
人懐こくて甘えん坊の麦。病院での血液検査も投薬も、されるがまま、ほんとに楽な仔だと喜ばれている。
麦も、空同様、とてもきれいな仔だ。まっすぐに長いトラ縞のシッポ、エプロンのような白い胸とお腹、白い足先は靴下を穿いているように見える。ピンクの耳、ピンクの鼻、ピンクの肉球がチャームポイントである。
シジミのときにはまだできていなかった薬、ネコ用インターフェロンが、今、麦の命をささえている。月に一度の定期検査と薬が欠かせない。
猫白血病はこの薬で治ってしまう仔もいるらしい。希望はある。